中国で進展する「創造的破壊」とデジタル・イノベーション~西村友作教授に聞く
中国は、この「新結合」を国家主導で推し進めてきました。2015年に提唱されたインターネットプラスは、様々な産業とインターネットの新結合を後押しする政策であり、これがエコシステムの拡大に寄与しました。
中国ではシュンペーターが重要視した「企業者」の育成と「銀行家」の役割を、国家が担っています。「大衆創業・万衆創新」政策では、起業しやすい環境を整え、海外の高度人材を招致し、研究者や学生の起業を支援しています。また、資金面では、中国政府はベンチャーキャピタルへの支援を通じ、民間資金をスタートアップ投資へと誘導する「国家新興産業創業投資引導基金」を設立し、後押ししてきました。
このように中国式イノベーションは、国家主導で新結合を推進し、民間企業を支援しながらイノベーション駆動型の経済成長を推し進めてきました。
◆イノベーションの鍵は民間企業の活力
――2023年以降の注目ワード「新たな質の生産力」とは?
三中全会の関連決定の中にも出てきた「新しい質の生産力」は、今年3月の全人代の政府活動報告で示された重点任務10項目の筆頭に位置づけられています。その中で提唱されたのがAIプラスです。これは、インターネットプラスの進化版といえるものです。
特に期待されているのは、製造分野での活用です。新型工業化を加速させ、製造分野でのイノベーションを喚起することで、質の高い雇用を生むと同時に、産業の高度化と生産性の向上が期待できます。「世界の工場」として強みのある製造業を進化させる狙いがあると思います。
――「新たな質の生産力」の今後の進展に大切なことは?
課題は民間企業の活性化です。イノベーションの要諦は、新しい技術を社会実装し、世の中に広く浸透させることです。
このイノベーションの重要な役割を担っているのは民間企業です。中国政府はスタートアップ分野における国有ユニコーンの育成に取り組んでいますが、それによって、民間企業がクラウドアウトされるようなことになれば、イノベーションの停滞を招く恐れがあります。
中国政府は開放的で公平な競争環境を提供し、イノベーション駆動型発展を促進していくべきだと思います。
◆グリーンエネルギー分野での中日連携への期待
――今後の中日協力、どの分野に可能性がある?
日本企業には、技術や経営理念なども含めた、有形、無形の資産が数多くあります。小売りやサービスなどの従来型ビジネスにおいて優れたノウハウを有しています。製造業の分野においても、日本企業の「ものづくり力」は、「新たな質の生産力」の発展を目指す中国でも学ぶところが多いと思います。
一方で、日本政府は、スタートアップ企業の育成と支援を経済成長の柱として位置づけています。ユニコーンの数を見てもわかるように、中国はこのスタートアップに強みがあります。中国では、先端技術に長けた新興企業が多くのイノベーションを生み出してきました。これら民間企業による、デジタル技術の社会実装においても中国は一歩先を進んでいます。
これらの分野においては、互いに相手から学ぶ所が多いのではないかと思います。
私が特に期待しているのは、グリーンエネルギー分野における協力拡大です。今後のデジタル経済の発展に伴うAIの利用拡大により、データセンターの電力需要はますます増加していきます。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、2026年の世界の消費電力量は、2022年の約2倍に膨れ上がると予測されています。