『窓ぎわのトットちゃん』 が中国で1700万部売れた理由(前編)
「まず、タイトルからして見事で。『窓ぎわ』という表現は絵画のようで、『トットちゃん』の中国語訳の『小豆豆』も響きがいい」
そう絶賛するのは、国際アンデルセン賞受賞作家でもある、北京大学の曹文軒教授(70歳)です。この本が成功を収めた理由について曹教授は、理想的な教育の姿が描かれていること、トットちゃんの可愛らしさ、そして、そのシンプルながらもたくみな表現手法にあると指摘します。
『窓ぎわのトットちゃん』中国語翻訳者の趙玉皎さん
『窓ぎわのトットちゃん』にはたくさんの印象的なエピソードがありますが、曹教授はトットちゃんの父親が、軍歌を演奏すれば食べ物がもらえることを知りながら、「ぼくのバイオリンは軍歌が好きじゃない」と言って演奏を断ったエピソードを例に挙げ、「平和の尊さという極めて大切なことを、さりげなく、それでいてしっかり伝えている」と指摘しました。
声高にスローガンや概念を語ることなく、いきいきとしたエピソードを通して伝えたいことを文学的に表現している点について、曹教授は、「黒柳さんはまさに達人です」と絶賛しています。
さらに、トモエ学園が空襲で燃える場面で、小林先生は炎をみつめながら悲しむのではなく、「次はどんな学校を作ろうか」と語ったというエピソードに言及し、曹教授は「恨みつらみはなく、淡々と語られている。その寛容な姿勢こそが黒柳文学の一番の魅力だ」と語りました。
■子ども、親、教師の共感が「トットちゃん」をベストセラーに
「トットちゃん」正式出版の立役者「新経典」社と猿渡さん
北京在住の日本人、猿渡静子さん(55)は『窓ぎわのトットちゃん』の中国での翻訳・出版権取得の立役者です。2001年に北京大学で文学博士を取得後、当時北京で発足したばかりの出版企画会社「新経典」に入社しました。同社は、『窓ぎわのトットちゃん』を含む数々のベストセラーを世に送り出した出版企画会社です。
猿渡静子さん
中国で書籍を出版するには、出版社が持つ「出版コード」が必要です。出版企画会社とは、出版社に企画を持ち込み、タッグを組む形で書籍を出すコンテンツ会社のことです。1990年代から2000年代初頭にかけて、中国ではこうした会社が数多く設立されました。
「入社してすぐ、社長からある日本の書籍のタイトルを聞かれました。ヒントは、小さな女の子が主人公で、自分の席にじっと座っていられず、窓ぎわに立って外を眺めるのが好きだということだけでした。丸一日考え込んで、『窓ぎわのトットちゃん』だと気づきました」
そして、猿渡さんは『窓ぎわのトットちゃん』の中国での出版プロジェクトに参加。同書は2003年1月に正式に出版されました。
中国で80年代初めから読まれていた「トットちゃん」
『窓ぎわのトットちゃん』の中国での売上部数1700万部という数字は、中国で正式出版となった2003年以降の累計です。しかし、実は、「トットちゃん」はその20年前の1980年代から中国で読まれていました。
2003年以降、中国で出版されたトットちゃんシリーズの一部 愛読者の本棚から