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作家・伊藤比呂美さん 中国のリアルと若者へのエール

CRIPublished: 2024-03-19 15:37:46
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――この一週間をどのように振り返りますか。

10年早く来たかった。そしたら、もっと関われて、また来て、また来て、また来てというのができたなと思っています。大学で話している時に、黒板に漢字を書くと、みなさん分かるんですよ。それはアメリカやドイツではありえなかった。やっぱり漢字を使える我々と漢字が使えない人たちとでは、相互理解が全然違うと実感しました。浅く広くという形のコミュニケーションは、ずっとこっちの方が取れると思いました。

■中国で愛読される理由「叔母のような存在」

――ところで、中国の女性に対する印象は?

今回は『閉経記』という本が中心だったのですが、とても面白かった。読者の意識が高く、みんなちゃんと読んでくれていて、すごい反応してくれました。若いエネルギーというのを今回すごく感じました。

実は1980年代に受けた印象では、中国の女の方が男と同格に仕事ができる。なんでもできて羨ましいなと思っていました。でも今回来てみたら、日本とあまり変わらないかもしれないと思いました。ただ、今の日本の女性は少し元気がない。だから、今の中国の若い人たちは一段とエナジェティックだなと思いました。

3月14日 北京で読者にサインする伊藤比呂美さん

――伊藤さんの著作が、中国の若い女性に人気だと聞いた時の気持ちは?

当然だろうなと思いましたね。日本人と中国人はもちろん違いもありますが、基本的な家族制度や生き方の倫理とかがすごく似ていますよね。それは、アメリカのそれとは全然違うと思うんですよ。

欧米では私の作品の中で“文学”といわれるものが翻訳されている。それが中国や韓国、つまりアジア文化圏では『閉経記』『犬心』などのいわゆる“エッセー”、女というものを主題にしたもの受け入れられている。不思議でしょ。たとえば、アメリカで出ている『トゲ抜き 新巣鴨地蔵縁起』。これは、私は詩だと言っているんですが、小説なんですね。ネタは『閉経記』と同じで、それを“文学”として書いたものです。この前アメリカで出版されたエッセー集『木霊草霊』も思想文学として読まれているようです。ノルウェーやドイツでも同じような傾向です。

――読後の感想では「女性としてこれから体験することの予習ができる」「この本を母親にプレゼントしたい」「伊藤さんは気軽に相談に乗ってもらえる叔母のような存在」といった回答がありました。

すごく嬉しい。中国の読者は20代から40代が中心ですが、日本の読者はもっと年上です。若い人たちに読んでもらえて、触れ合うことができるのって、本当に面白いと思います。彼らは傷つきやすいし、特に日本の若い人は後ろ向きだしね。私はコロナを挟んで、日本で大学の教師になったんですが、目の前で若い人たちが傷ついて、打ち回って落ち込んで、這い上がってこられなくて、苦しんでというのを本当に見てきたんですよね。

私はもう「おばさん」で、そこまで傷つかないから、彼らが考えていることに共感して、「あ、そう、よく分かるわ」と言いたい。ただおばさんは面と向かって座らないんですよね。隣に座って同じ方向を見つめるんです。そして話を聞きながら、時々「分かんないから、もう一回言って」って言って、また聞く。こんな関係性が持てればいいなと思っています。

■「自分らしく」とエールを送りたい

――伊藤さんの中国の読者は、昨年話題になった上野千鶴子・鈴木涼美共著の『往復書簡 限界から始まる』の読者層と、かなり重なっています。「女性である」ことに目覚めつつある中国の若い女性たちをどう捉えますか。

結局みんな何か言ってくれる「叔母さんが欲しい」んだと思います。昨年、上野千鶴子さん、鈴木涼美さんと一緒に作家の高橋源一郎さんのラジオ番組「飛ぶ教室」に出演したんですが、そこで高橋さんは4人は家族だと言ったんですね。長女は上野さん、次女が涼美さんの母親(児童文学研究者の灰島かり)、三女が私で長男が高橋さん。そして、私たちの親は「近代の日本」だと。でも、親は死んじゃったと、そういう話をしたんです。涼美さんはあの本の中で、しきりに「母との関係の難しさ」を語っています。涼美さんの母はもう亡くなっているのですが、ずっと母との関係についてストラグル(悪戦苦闘)している彼女に対して、上野さんは「ちゃんと自分の傷に向き合いなさい」と言った。あの番組の白眉はあそこでしたね。三女の私はものすごくいい加減で、食べたいものだけ食べて、「じゃあね」みたいに帰っていく。そしてまた帰ってくるみたいなのが、私の役割だなと思いました。

――そういう「近代の日本」が生み出した子どもの本が、中国でも共感を呼んでいる現象をどうとらえていますか。

面白いですね。それにすごく似たことが日本でもありましたよ。

『82年生まれ、キム・ジヨン』という韓国の小説があります。韓国の1982年生まれの女が仕事と夫と家族との間で苦労した末、精神的にバランスを崩しちゃうという話なんですけど、それを日本人の女たちは、自分のこととしては読まない。でも、すごく近い話として読むんですよ。違う文化だからこそ、引きつけて読めるんだと思います。

上野・涼美・伊藤は今、中国の若い女たちにとって、すごい近いところにいて、よく分かるけれども、ちょっと距離がある。だから、自分たちの何かを侵害してくることはない。自分たちは安全なところにいるけれど、この人たちに勇気をもらえる。そんな作用があるんじゃないですかね。

3月16日 北京での講演会で翻訳者の蕾克さん(左)と詩を朗読する伊藤比呂美さん

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