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小説家・古川日出男、北京で「アジア文学」を語る(1)

CRIPublished: 2019-03-19 19:05:00
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<紫式部との共作~『女たち三百人の裏切りの書』>

紫式部には弱点もありました。彼女も貴族社会の人なので、外の世界にはほとんど触れていません。ですから、階層が下の人、下級階層・下層民というのは一切出てきません。ここに、『源氏物語』という作品の大きな弱点が当然あったわけです。

それなら、紫式部と手を結んで、震災の後に何かモノを作るとしたら、その弱点を補うことが、自分にとって紫式部との共作になるのではないか。彼女が見ていた世界でないところを、僕が書くことによって補って、その当時のもっと大きな全体を書けるのではないか、そういう風に考えています。

それは言ってみれば、京都の中心の政治の中枢がある内裏、あるいは京都を包む畿内という地方の外にまで広がる『源氏物語』、日本の辺境のための『源氏物語』です。僕の中で一つの言葉が浮かびました、これは夷狄(いてき)のための『源氏物語』だと。僕は、野蛮人しかいない場所として原発を建てられた者たちと繋がっているのだから、そういう人間として辺境の存在する『源氏物語』を、紫式部と共作しようと決めました。そういうものを日本列島の中心周辺から書いていって、『源氏物語』の世界を包囲してしまおうと思いました。それで、2013年から書き始めて、2015年に出しました。

幸い、非常に評価してもらって、本当にありがたいことに文学賞ももらって、嬉しかったです。――そして、その作業をする中で、お互いに手を借り合っていけば、ある地域の人達、ある時代に閉じ込められた人たちが持つ弱点をも補えるのではないか、という風に思い始めました。

【プロフィール】

古川日出男(ふるかわひでお)さん

小説家。

1966年福島県生まれ。早稲田大学文学部中退。

1998年、長篇小説『13』でデビュー。第4作となる『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞と日本SF大賞をダブル受賞。『LOVE』(2005年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(2015年)で野間文芸新人賞と読売文学賞をダブル受賞。2016年刊行の池澤夏樹(いけざわなつき)=個人編集「日本文学全集」第9巻『平家物語』の現代語全訳を手がけた。その他の代表作に『サウンドトラック』(2003年:仏・伊語に翻訳)、『ベルカ、吠えないのか?』(2005年:英・仏・伊・韓・露語に翻訳)、『聖家族』(2008年)、『馬たちよ、それでも光は無垢で』(2011年:仏・英・アルバニア語に翻訳)、『南無ロックンロール二十一部経』(2013年)などがある。

文学の音声化としての朗読活動も行なっており、2007年に文芸誌「新潮」で朗読CDを、2010年には文芸誌「早稲田文学」で朗読DVD『聖家族 voice edition』を発表。宮沢賢治の詩を朗読したCDブック『春の先の春へ震災への鎮魂歌』(2012年)も刊行している。

また他ジャンルの表現者とのコラボレーションも多く、これまでに音楽家、美術家、漫画家、舞踊家等との共演・共作を多数行なっているほか、2014年には蜷川幸雄(にながわゆきお)演出の舞台のために戯曲『冬眠する熊に添い寝してごらん』を書き下ろした。

2011年の東日本大震災の後、自ら脚本・演出を手がけた朗読劇「銀河鉄道の夜」の上演や、言葉と表現をテーマにワークショップなどを行なう「ただようまなびや文学の学校」の主宰など、集団的な活動にも取り組み文学の表現を探究している。

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