政治学者の目に映る、新型コロナと今後の世界~中国社会科学院日本研究所・楊伯江所長に聞く
聞き手:王小燕
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が長引く中、この感染症は中日関係を含め、今後の世界情勢に一体どのような影響を与えるのか。今回は政治学者で、日本問題の専門家である、中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長にマイクを向けてみました。
グローバリゼーションの流れは今後も変わらない
――新型コロナウイルスについて、2020年3月にWHOは「パンデミック(世界的大流行)」宣言を出し、ウイルスの猛威は6月現在も世界で続いています。楊所長は歴史の座標軸という視点から、2020年のこうした事態をどう捉えていますか。
新型コロナウイルスは、自然災害や金融危機などと比べると、突発性、無差別性、越境性、不確実性などの特徴があります。国同士の関係や、世界のパワーバランスと国際秩序に影響を及ぼします。そのため、「新型コロナウイルス感染症は、新たな時代区分の起点になる」という見方をする学者が多いです。たとえば、ベストセラー『フラット化する世界』の作者、トーマス・フリードマン氏もその中の一人です。
時間軸で言えば、今回の感染症は「百年に一度の大変革」が進行する中で起きた出来事なので、歴史の転換点になるだろうと私も見ています。
また、人類が共通の脅威に対して手を取り合って対処する必要があることを痛感したという視点から、私は、2020年は「人類運命共同体元年」と呼んでも良いように思っています。
――転換点の前後の世界で、一番の違いは何になると見ていますか。
人類のこれまでを振り返れば、世界規模の感染症はしばしば歴史を変えてきました。今回の新型コロナウイルスにより、世界は多くの課題に直面するようになり、不確実性、景気後退のリスク、地域情勢と国際情勢の緊張、反グローバリゼーションの風潮の強まり、などが予想されています。
――グローバリゼーションの流れが今後、大きく変えられるということでしょうか。
私は、グローバリゼーションは一つの方向性として、逆転させられることはないと思います。ただ、テンポは変えられるだろうと見ています。
方向性が変わらないと思った理由はまず、資本について言えば、協力がもたらす利益のほうがリスクを遥かに超えているからです。次に、グローバリゼーションは利益配分の不均衡という問題をもたらしましたが、それでもアメリカなど先進諸国では国民の年収中央値は近年、減少しておらず、増え続けているからです。
そういう意味では、今回の新型コロナウイルスは、グローバリゼーションへのテストになると思います。合格した点、不合格な点、改善すべき点、破棄すべき点……色々と見えてきます。ただ、そうした中から得られる結論の一つは、世界的な公衆衛生上の安全保障と世界経済のために、各国は結束して立ち向かわなければならないということだと思います。
――今回のパンデミックは、これまでの保護貿易主義の台頭や、中米の経済貿易摩擦を背景に発生しました。最近はとりわけ、中米間の対立がますます顕著になっていることから、「新冷戦」が始まったと日本メディアが頻繁に報道していますが、楊所長はこうした論点について、どう見ていますか。