【観察眼】中国最大のECセール「ダブルイレブン」の進化から見る中国経済のいま
世界最大規模のECセールとして知られる「ダブルイレブン(W11)」が幕を閉じた。このセールは、2009年にネット通販大手のアリババが企画した「独身の日」セールから始まり、今年で16回目を迎えた。国民生活にすっかり溶け込んだこのイベントは、中国経済のトレンドを示す指標ともなっている。
今年のW11にはどんな特徴があったのか。まずは、筆者の実体験を紹介する。
今回、筆者が購入したのは最新の洗濯機だ。まず注文から約10分後、販売サイトの個人ページに「出庫準備中」の表示が出る。それから約4時間後には物流会社から、「明日午前中に配送予定」と連絡が入る。ほぼ同時にメーカーからは、「商品到着後、据付担当者から訪問時間の連絡があるので、電話に出てください」という電話を受け取る。そして、注文から約36時間後、自宅には新しい洗濯機が設置され、古い洗濯機も回収されていた。価格は、通販サイトの「W11」割引と政府の買い替え補助金の組み合わせで、通常より3割も安かった。新しい洗濯機はスタイリッシュで、機能も充実しており、消費電力も国家最新認定の1級省エネ認証を取得している。11年前の古い洗濯機とは大違いだ。
この買い物体験には、今年の「W11」の特徴と新しいトレンドが映し出されている。
そのひとつが、政府が提供する買い替え奨励補助金だ。今年は対象となる家電・デジタル製品に注目が集まり、「W11」の売り上げを押し上げた。10月31日までに家庭用電器の売り上げは1324億元(約2.6兆円)に達し、全体の15.7%を占め、多くのジャンルの中でダントツの1位となった。
その背景にあるのが、今年、中国政府が割り当てた3,000億元(約6兆3,000億円)の超長期特別国債だ。これは、設備更新と消費財の買い替えへの支援強化を目的としたもので、製品の省エネ効率に応じて、15%から20%の補助金が支給される。筆者の購入した洗濯機も、もちろんその恩恵を受けている。
アリババ集団傘下のECサイト「天猫(Tmall)」の統計によると、今年の「W11」では、省エネ・節水レベルの高い家庭用電器の売上高は92%を超え、グリーン消費を力強く支えた。補助金に加え、消費者の環境への意識の高まりもまた反映されている。
もうひとつの注目点は、AIを最大限に活用した物流とアフターサービスの進化だ。
中国国家郵政局の統計によると、10月21日から11月10日までの全国の宅配便取扱量は1日当たり5.5億件を超え、前年同期比で74%の増加となった。この大量の荷物は1990の県レベルの公共配送センター、33.78万の村レベルの配送ステーションを通じて、最終的には宅配員の手で消費者に届けられる。毛細血管のように張り巡らされた物流ネットワークは中国全土の約98%の人口をカバーしている。
中国の宅配便取扱量は、10年連続で世界一だ。そのスピードと正確性には定評があり、今年は物流が急増するW11期間中も速やかに荷物が配達された。これを可能にしているのが、人工知能(AI)の活用だ。国家郵政局によると、今年は「W11」に向けて、AIが過去のデータと消費者行動に基づき、各拠点で必要な倉庫スペースや作業員を予測した。さらに、AIシステムはメーカーからの出荷と同時に最適な配送ルートを算出する。自動仕分けシステムにより、仕分けの効率アップだけでなく、ミスの発生も限りなくゼロに抑えられた。