【観察眼】中国最大のECセール「ダブルイレブン」の進化から見る中国経済のいま
消費者の購買意識の変化と、それに対応する販売側の運営方法の改革も注目に値する。
「独身の日」セールの開始当初、割引が適用されるのは11月11日の当日のみだった。しかし、その期間は徐々に延長されるようになり、今年、各プラットフォームは10月初め頃から「W11」キャンペーンを段階的にスタートした。これにより、消費者はゆっくり時間をかけて商品を検討できるようになった。また以前は、「最安値」がなによりも強調されていたが、今年は商品の質やコストパフォーマンスへの訴求が目立つようになった。
そこには、中国の消費者マインドの変化がある。安さ一辺倒から品質をより重要視する時代になったのだ。国内のECプラットフォームが行った調査によれば、約4000人の消費者のうち51%が「価格とプロモーションを優先する」と回答した一方、「品質保証と正規メーカーを優先する」とした回答者も48%に上った。
今年、売上高の増加が目立ったのはペット用品だ。また、価格は2000元台とやや高価だが、アプリと連携して簡単に弾ける無弦ギターが若者の間でひそかなブームになるなど、消費にも新たなトレンドが生まれている。中国の消費ニーズはますます多様化し、質の高い暮らしに対する追求が高まってきている。
「相互接続」は、今年の「W11」で実現された大きなイノベーションだ。アリババ、テンセント、京東(JD)などの大手プラットフォームが決済や物流で協業し、ネットユーザーの利便性を向上させただけでなく、各種の壁を打ち破り、データやリソースのより自由な流通が進んでいる。
プラットフォームによる中小の販売ショップへのサポート策も評価されている。たとえば、返品が発生した場合の送料の一部免除や、AIの活用に対するサポートなどが挙げられる。今年の「W11」は「AI電子商元年」とも言われる。生成AIの普及に伴い、ショップ運営者は、プラットフォームが提供するAIサービスを利用して、商品の説明や陳列をより効率的かつ低コストに行えるようになった。昨年は無料だった天猫(Tmall)の「AIビジネスマネージャー」の利用は、月額99元(約2000円)と有料になったものの、今年のW11では累計400万のテナント向けにサービスを提供し、中小規模のメーカーに1億点以上のマーケティング用素材を生成した。
こうしてみると、中国の「W11」の位置づけは、もはやネットショッピングの祭典を超え、中国経済と産業のダイナミズムを映す「窓口」となっていることがわかる。そこにあるのは、イノベーションと成長に向けて社会全体が努力する姿と、自己変革を怠らず時代の発展とともにまい進する中国経済の姿に他ならない。