<北京冬季五輪>日本人学者・馬場公彦さんが開閉会式から読み取れた中国のいま
――17日間の日程があっという間に終わりました。今度は閉会式にも行かれたそうですが……
閉幕式で私が最も心を打たれたのは、「折柳寄情」というプログラムです。中国では、友人と別れる時、町外れに生えている柳の枝を折って差し出す儀式がありました。日本でも漢文の教科書などを通してよく知られている唐代の詩人・王維の「送元二使安西(元二の安西に使ひするを送る)」にも、「渭城の朝雨軽塵を浥し、客舎青青柳色新たなり」という詩文があります。
その時、バックで流れた曲は、中国では卒業式などにおいて惜別の思いを込めて歌う「送別」という曲です。日本では、「旅愁」として知られるメロディーです。原曲は、19世紀のアメリカの音楽家・オードウェイの『家と母を夢見て』。日本では、犬童球渓が音楽教育の歌曲として訳詞をつけていましたが、それが110年ほど前に、日本に留学していた李叔同という方が「送別」という訳詞を付け、中国に持ち帰ったんです。
そういうふうにして、この歌は中国でも歌い継がれ、オリンピックでも使われたわけです。日本人からしても非常に感銘を覚えました。開会式の立春の苗のように、同じく東方の文明に生きる私たちとしては、非常に琴線に触れるセレモニーだったと思います。
――中日のつながりという視点からみれば、古代から近代へと受け継がれてきた文化的絆だけではなく、現代に入ってからの人のつながりもありますよね。
それは、花火の芸術監督・蔡国強さんという方の存在ですね。蔡さんは10年近く、日本の仙台などに滞在し、日本語もとてもお上手です。今や、中国を代表する世界的な芸術家になりましたが、やはり彼のベースには東洋の哲学を美術で表現するという一貫したものがあります。
■「過去に向けたメッセージ」から「未来に向けたメッセージ」へ
――最後に、14年前のオリンピックと比較して、感じたことは?
全体の印象ですが、2008年の北京オリンピックの開閉会式は、過去5000年の中国の歴史をパノラマのように、ドラマ仕立てて見せていました。文化の厚み、ダイナミズム、スケールに圧倒されてしまいましたが、今回は、表面的には中国さというものが極力抑えられていました。しかし、非常に手作り感があり、国家と民族を超えて、「共に未来を歩もう」、みんながそこに入っていけるような親しみやすさを感じた開閉会式でした。
2008年の開幕式が過去に向けたメッセージだとしたら、今回は明らかに今、ないし、未来に向けてのメッセージになっています。しかも、そのメッセージを送る相手は、世界の方というメッセージだったというふうに見ています。
もう一つ、今回の大会では、北京大学からの学生600人も含めて、かかわったボランティアの人数は1万8千人に上るそうです。若い皆さんが国際的な平和の式典という記憶や経験を、今後の実社会の中で生かしていくという視点からも、とても意義のあることだと思います。
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