蘇翊鳴選手が中国スノーボード界にもたらすもの~中国代表元コーチ・李為さんに聞く
蘇選手は日本人選手の皆さんにならって、佐藤コーチを「ヤッサン」と呼んでいます。対して、佐藤コーチは蘇選手のことを「小鳴(シャオミン)ちゃん」と呼んでいます。2人の会話は基本的に英語ですが、日本語が混じることもあります。
――李為さんは蘇選手とも佐藤コーチとも縁が深いとか……
蘇翊鳴選手と佐藤コーチとは、それぞれ別の時期に知り合いました。佐藤コーチのことを知ったのは、ぼくが中国代表のコーチをしていた時です。彼の指導を受けて猛烈なスピードで進歩するスノーボード少年の映像を目にしたのです。それで、ぜひこの佐藤コーチを中国代表に招くようにと、国家体育総局に推薦しました。
蘇翊鳴選手については、彼の少年時代から知っています。当時の彼は体が小さく、トリックのベースとして360(スリー・シックスティー)かける2の720(セブン・ツー)しか回れませんでした。それが今では1980度回転のギネス記録の保持者ですからね。
――蘇選手の成長に、佐藤コーチはどう影響したのでしょうか。
もともと、蘇選手は一人で練習していましたが、佐藤コーチの評判を聞いて、自分から指導を仰いだのです。佐藤コーチに出会うことがなければ、今の蘇翊鳴はなかったでしょう。彼がいたからこその五輪メダルだと思います。
佐藤コーチの指導はとても細かく、厳しいです。褒めるところは褒めますが、うまくできない時に笑顔は見せません。怖いくらいの雰囲気です。練習以外ではとても優しく、よく冗談を言う、フランクな方です。
2019年8月ニュージーランド・カードローナースキー場にて
蘇選手は同スキー場で開かれたコンチネンタルカップで優勝
■スノーボードならではのカルチャー、勝ち負けにこだわりすぎない思考が広がってほしい
――中国と日本のスノーボード界はどう違うのでしょうか。
私がスノーボードと出会ったきっかけは日本への留学でしたが、その頃から今に至るまで、スノーボードのレベルは日本のほうが上です。たとえばコロナ禍でも、日本の選手はアメリカやヨーロッパで行われる大会に出場しましたが、中国の選手は海外には行けず、ポイントを得る機会がありませんでした。そんな中で、蘇選手は個人として海外遠征に出かけ、出場資格を手にしました。
――李為さんにとって、スノーボードの魅力とは?
そもそもスノーボードは遊びから生まれたスポーツで、ぼくにとっては競い合うだけじゃない、それ以上のものがあります。相手が高得点をたたき出せば、自分の順位は下がります。それでも、滑り終えれば皆でハグして称えます。そういうカルチャーなのです。スノーボーダーはみな仲間で、まずは仲良くなって、一緒に楽しもうよという連帯感がありますね。
だからこそ、採点の仕方について問題になることもありますが、ジャッジのことはジャッジたちで解決してほしいと考える——それがライダーの基本的なスタンスです。その結果を自分たちは気にしないというか、同じ人間なのだからジャッジもミスすることもあると考えている。それも、この競技の特徴だとわきまえています。そういう雰囲気も魅力の一つです。