中国社会に深く根ざすアートフェアを~「アート北京」董夢陽さんに聞く
聞き手:王小燕
「アート北京」創始者の董夢陽さん
中国のアート市場の重要なバロメーターの一つとされる「アート北京博覧会」がメーデー連休に合わせ、4月30日から5月3日にかけて、北京で開催されます。
「アート北京」は「ローカルからアジア全体を見る」をコアコンセプトに、2006年から毎年北京で開催されるアートフェアです。昨年(2020年)はコロナ禍を受けて開催を見合わせ、今年は2年ぶりの実施となります。事務局の発表では、2年ぶりに開催される今回の博覧会は現代美術、古典、写真、デザイン、パブリックアートの5パートからなり、150軒のギャラリーや団体が出展し、展示面積は2万平方メートルに上ります。
開幕に先立ち、「アート北京」の創始者で、チーフディレクターを務めている董夢陽さんにインタビューし、新型コロナの世界的大流行の継続を背景に今回の博覧会に寄せる期待や、中国のアートシーンで同フェアが果たす役割などを伺いました。
■コロナ禍をきっかけに考える心を養うためのアートを社会の隅々に
――まずは、コロナ禍がアート産業にもたらした影響を教えてください。
感染症は様々な業種に影響を及ぼしていますが、中でも文化産業は生活に必要不可欠ではないものとして、ひときわ大きな影響を受けました。しかし一方で、猛スピードで走り続けていた足にブレーキがかけられたことで、ゆっくりと考える時間が持てるようにもなりました。
そこで考えたのは、今後の向かうべき道についてです。人間というのは、物質的に豊かになれば、おのずと心の余裕を求めたくなるものです。中国はいま、そんな時代に入ろうとしています。これは一晩で達成できるものではありませんが、確実にそのような方向性に向かっていくと思います。中国には世界の五分の一を占める人口があります。この大きな国の文化的ニーズに目を向ければ、まだまだ大きなポテンシャルがあると私は見ています。
いま世界の人々が中国市場の開拓に精を出しています。我々は自信を失ってはいけません。私たちこそが中国のマーケットに誰よりも詳しく、ここで一旗挙げることができるはずだと思うようになりました。
写実的な人物画で知られる忻東旺(1963-2014)回顧展の出展作品油絵「誠城」1995年
――そうしたじっくり考える作業の中で、どのような収穫がありましたか。
確かに短期的にみれば、「国内循環」と呼ばれる状況が続くかもしれません。しかし、ここでいう「国内市場」というのは、実のところ欧州よりも面積が広く、人口も多い巨大市場だということを忘れてはなりません。また、国内に注目することで、掘り下げるべき取り組みにも気づけました。
たとえば、アートをどうローカルに役立てるか、どうすれば地方や農村部の人たちにアートに触れてもらえるか、アートを暮らしの一部にどう取り入れていくか、そういったところで工夫すべきです。そう考えれば視界が開けてきます。これが大きな収穫でした。
水彩画「タジク族の花嫁」李暁林2019年