中日の法律交流相互学習に意義ある~JICA長期専門家・白出博之さんに聞く(下)
――民法典の編纂を例に、日本側の専門家との交流で、特にフォーカスしていた分野にどういった内容がありましたか。
白出民法典編纂との関係で中国側から提起された研究テーマは多数ありますが、主なものをあげると、①訴訟時効期間の見直し、②意思表示、法律行為論、③後見制度、④日本の債権法改正、及び相続法改正関連の諸論点、⑤夫婦財産制と日常家事債務、⑥離婚における財産分与等、⑦生態環境被害の救済等です。
特に印象的であったのは、訴訟時効(消滅時効)制度の見直し、日本の債権法・相続法改正関連の諸論点については、日本でも120年ぶりの大規模な改正作業が行われたホットイシューでしたので、訪日研修の際には、かなり突っ込んだ議論を、時間をかけて、日本の法務省、大学、弁護士会等との間で視点を変えて議論が展開されてました。
◆相互学習に意義ある
――JICA派遣の長期専門家として、白出さんは中国の法学者と交流することの意義をどう実感していますか。
白出交流の意義を一言で言えば、相互学習です。JICAとしては、法整備支援プロジェクトを通じて、日本法の知識、経験を、相手国カウンターパート機関にお伝えし、その立法起草作業に役立てていただくことが主目的ではありますが、プロジェクト活動での研究会や意見交換、新法成立後の成果発表会等を通じて、中国側から日本側が学ぶことは少なくありません。
例えば中国の法律関係者は,「中国法は大陸法系の伝統を持つ国家である」といいますが、他方で、英米法系国家で発達した懲罰的賠償制度の類似制度が、中国法では民法典その他の法律において大胆に採用されています。前回のインタビューでも触れましたが、「第三編契約」の体系論も同様です。その意味で、「良いものは良い」ということを合理的に考えて、法体系の違いに拘泥せずに、新たな制度を積極的に採用していくという中国の姿勢は、われわれ日本の法律家も発想を柔軟に変えて学ぶべきであると考えます。
――2019年、白出さんは中国政府が外国人専門家に授与する最高の賞である「中国政府友誼賞」を受賞されました。受賞の理由、そして、賞を受け取った時にお気持ちを聞かせてください。
2019年9月30日、中国政府友誼賞の授賞式にて
白出2019年9月30日、人民大会堂において世界31カ国の外国専門家100名に対し、国務院・劉鶴副総理から友誼賞の記念メダルと賞状が授与され、その後に国務院・李克強総理との会見・講話等の記念式典が行われました。これはちょうど中国の建国70周年であると同時に、改革開放40周年の節目の年でもありました。日本人受賞者合計13名、このうち対中ODA関係者が3名であり、例年に比較して受賞者が多かったことは、中日両国の関係改善の反映だけでなく、1979年12月から改革開放支援として実施されてきた日本のODA事業に対する高い評価と感謝を看取することができます。
「友誼賞」(Friendship Award)は、中国政府が中国の現代化建設と改革開放事業において突出した貢献をした外国専門家を表彰するために設けられた、国家レベルの最高の栄誉賞であるということをお聞きして、私自身、本当に驚き、光栄に感じました。