中日の法律交流相互学習に意義ある~JICA長期専門家・白出博之さんに聞く(下)
弁護士で、日本国際協力機構(JICA)の中国駐在長期専門家の白出博之さんに引き続きお話を伺います。シリーズ3回目のテーマは中日両国の法律交流についてです。白出さんの紹介によれば、2014年6月から2021年3月まで、JICAの「市場経済の健全な発展と民生の保障のための法制度整備プロジェクト」の下で、中国からの訪日研修には延べ390名以上、中国で開かれたセミナーに日本からは延べ200名以上、中国国内からは延べ100名が参加したそうです。
白出博之さん
◆中日の法律交流改革開放の歩みとともに展開される
――JICAが関わっている日本サイドと「全人代法制工作委員会」とのこれまでの交流事業の概要について教えてください。
白出日本の中国政府に対する法整備支援は、中国の改革開放を支援する事業として開始されたものですが、いくつかの段階に分かれます。
まず当初は2004年の中国商務部に対する『経済法・企業法整備プロジェクト』から開始されました。具体的には、会社法(2005年10月改正)、証券法(2005年10月改正)、企業破産法(2006年8月制定)、独占禁止法(2007年8月制定)などの法律です。
いずれも経済法、企業法分野が主な内容であり、中国の改革開放支援と結びつけて理解しやすいと思います。
次に中国で喫緊の課題とされていた刑事、民事、行政裁判の手続きに関する3つの訴訟法の改正、特にその中でも、2010年からのプロジェクトでは、民事訴訟法の改正に取り組んで、いわゆる現代型訴訟への対応や、不特定多数に対する権利・利益の侵害(具体的には環境資源保護、多数消費者の大規模な被害等ですが)、これに対応する新しい制度としての公益訴訟制度の研究等が重要課題でした。
これを抽象的にいえば、人民の合法的権益保護のための司法アクセスの権利、法に基づく裁判を受ける権利をいかに実質的に保障するかという課題といえます。
2012年から、まず「民が官を訴える」という行政裁判に関する行政訴訟法(2014年11月改正)に取り組みました。
続いて環境保護法(2014年4月改正)、大気汚染防治法(2015年8月改正)、食品安全法(2015年4月改正)等の改正作業に取り組みました。いずれも人民の生活に直結する重要な課題ですので、これらの法律の改正法については「史上最も厳格な法律」「牙を持った法律」として報道され、多くの注目を集めるものになりました。
2014年6月から現在まで継続している『市場経済の健全な発展及び民生の保障のための法制度整備プロジェクト』では、「法を管理する法」と称される立法法(2015年3月改正)、サイバーセキュリティ法(2016年11月制定)、民法典編纂の第一段階としての民法総則(2017年3月制定)、証券法(2019年12月改正)、民法典(2020年5月制定)、専利法(2020年10月改正)等の改正・起草の研究を行いました。
なお現在のプロジェクトは、当初の計画では2017年6月末が期限でした。その時点では、民法典編纂の第一段階である民法総則は成立していましたが、第二段階の各分編起草作業は未完成でした。また国際社会からも注目を集めていた中国専利法の改正作業も終わっていませんでした。そこで、これらの重点課題に対応するために、プロジェクト期間が延長されて現在に至っています。