内山書店と中国〜変わらぬ絆と新時代の交流物語(後編)
■社長・(子)内山深さん 「デジタル時代 よりフラットにできる日中の交流を」
現在、書籍、雑誌など、毎年中国から約8千点の出版物を輸入している内山書店。店頭販売のほか、通信販売や大学・官公庁からの注文などにも対応しています。中日関係の浮き沈みや、時代や世代の移り変わりに伴い、書店の運営のあり方にも少しずつ変化が生じているようです。
社長の内山深さん(52歳)によると、昔は純文学、研究書などを重点的に仕入れていましたが、最近では若い読者の増加に伴い、中国のライトノベルや、漫画などもたくさん輸入しているそう。
内山深さん
■すばやく変化する時代を生きて
書店の2階に家族で住んでいた父親の代とは違い、高度経済成長期を生きてきた深さんは、東京郊外の住宅地で少年時代を過ごしました。1986年、家族旅行、それも祖母、両親、親戚一同16~7人にもなる団体で中国を訪れたのが初めての訪中体験。しかし、到着3日目からお腹を壊し、また、ドアも仕切りもない中国の公衆トイレに驚き、日本との発展の格差を強く実感した旅でもあったそうです。
家業については、1年先に大学に入った双子の兄が英文学を専攻したため、「書店を継ぐのは私しかいない」と思い、大学では社会学を専攻しながらも、外国語には中国語を選びました。1997年に卒業後、北京大学に留学し、生の中国に1年間どっぷりと浸かったのでした。
父親の働く後ろ姿を見ながら、書店に勤め始めて20年ほど経った2017年、深さんは社長に就任。しかし、それまでに情報通信技術の発展で、書店を取り巻く環境に大きな変化が生じていました。そして現在、生まれながらにして、インターネットや携帯電話に親しむ「デジタルネイティブ」の世代が大人になりはじめ、紙媒体よりもデジタルの形で情報を取得する若者がどんどんと増えています。また、中国の出版業界にも共通した悩みとして、オンラインショッピングの浸透が価格競争に拍車をかけており、書店の利益率を引き下げています。
■デジタルネイティブだからこそのフラットな交流に期待
東京内山書店 中国からの輸入書コーナー
「考えごとがいっぱいありすぎて、大変な時代」。深さんはそんな書店を取り巻く環境を見つめながらも、AIやデジタル技術がもたらす影響を長いスパンで捉える必要を指摘しています。
「デジタルの時代が長くなるにつれ、逆に紙の書籍が新鮮に映るかなというのもあります。もうしばらくすると、デジタルしか知らない人にとっては新鮮な、紙の書籍もいっぱい紹介していけるんじゃないかなと」
変化を待つだけではなく、書店に足を向けてもらう様々な取り組みも積極的に行っています。その一つが、SNSによる中国の新しい文化や本の情報の積極的な発信。日々の努力の甲斐あり、中国のライトノベルやゲームなどに惹かれて来店する若者客が増えているそうです。
また、デジタルネイティブだからこその新しい交流にも期待していると言います。というのは、一昨年頃から、「中国語ができなくても、原書を買ってアプリで翻訳して読む」という新しい現象が現れ始めたからです。