【観察眼】歴史の全容を知ることが平和への第一歩
一方、戦死とともに「軍神」と崇められた特攻隊員の「本当の気持ち」にも思いを馳せたい。残された多くの遺書によれば、圧倒的多数の隊員は、恐怖、不安、怒りの感情をあらわにしていた。爆弾を積んだ木製、あるいは車輪や動力装置すらない粗末な戦闘機を操縦して、死に向かわざるを得なかった彼らのやるせなさが伝わってくる。
特攻隊員らにまつわる、もう一つの知られざる歴史がある。機体の故障や不時着などで生還した特攻隊員の処遇である。かつて福岡にあり、今はすでに取り壊された「振武寮」に彼らは軟禁され、「再教育」を受けていた。多い時で約80人の特攻隊員が収容されていたという。罵倒され、軍人勅諭を延々と書き写させられたり、竹刀で殴られたりしたのが「再教育」の日常であったという証言が残されている。
早田選手の発言が引き金に噴出したさまざまな議論は、日本社会の歴史認識を写し出した鏡のようだ。かつて日本の侵略を受けた中国人として、特攻にまつわる歴史に対し、日本人が自己犠牲を謳歌し、称賛するナラティブで過去を語ろうとする姿勢には、大きな声で反対を表明したい。特攻隊員の一人ひとりにまつわる「小さな歴史」はどれだけ心を打たれるものであっても、世界史においては神風特攻隊が多くの犠牲を生んだ非人間的で残酷な作戦であったという、美化や謳歌の対象にならない多くの不都合な面にも忘れずに向き合う必要がある。
一方、24歳になったばかりの早田選手については、中国でも多くのネットユーザーが表明しているように、「若者が歴史に関心を持つこと自体はとても良いこと」だ。ぜひとも練習や競技の合間に、歴史に対して多様な面から理解を深め、吟味してほしいを切に願う。そうした努力を踏まえながら、今後も早田選手には引き続き中日両国の卓球交流への貢献と更なる活躍に期待したい。