【観察眼】金融包摂への取り組みが中国の農村振興に新たな活力を喚起
桂林銀行の事例は、銀行の農村部向けサービスの展開は銀行自身にとっての事業拡大と体質強化につながりうると同時に、農村部にとってもよい循環を生み出せることを物語っている。
重要な状況としてはまず、中国の農村部では栽培業や養殖業の導入を通じて貧困から脱却し、さらに大規模な農業生産ができるようになったので、資金需要もおのずと生じたことがある。
次に、銀行が農民に寄り添い、農村部の産業の発展に適した形でのサービスの刷新を行なった。村住人の自宅に設置された簡易店舗はその一例だ。
第3点は、それまで銀行と無縁だった農民や農村部の事業体、団体関連の取引データがどんどん蓄積され、銀行が郷や村単位で与信枠を設定し、その範囲内での住民への無担保融資を行うことが可能になったことだ。村住民の小口融資の需要にしっかりと応えられることの意義は大きい。
第4点は、銀行が通常業務である金融サービスだけでなく、村の管理や情報伝達をけん引する役割も果たしていることだ。その一例は、「站長」と村住民の話し合いによって決まった、居住環境の美化を呼びかけるポイント制度などの導入だ。「自宅内外の衛生状態が良好ならば20ポイント」「村落の環境美化活動に参加すれば1回につき5ポイント」「子が大学に入学すれば10ポイント」――といった日常生活に関する細かなルールが決められ、ポイントがたまると、「包摂金融服務点」でコメ、洗剤、歯磨き粉などの日用品と交換することができる。
もちろん、「人の意欲」も大いに奏功している。多くの農村部出身の若者には、社会人になれば故郷の建設に一役買いたいという強い使命感がある。桂林銀行に就職した農村部出身の若者の多くが、故郷近くの小型支店への赴任を志願している。肉牛牧場と近場の工場や合作社との連携が実現したのも、そのような経緯を経た銀行側関係者の熱意があったからこそだ。
デジタル技術に支えられた金融包摂への取り組みは、中国政府が今年年初に打ち出した方針でもある。張教授らの広西での見聞は、まさに金融包摂が農村振興にもたらした新たな光景だ。そして、全国各地の農村で展開されつつある事例の一つに過ぎない。貧困を抜け出した中国の農村部では、今日も持続可能な発展に向けての取り組みを地道に進めている。