【観察眼】日米の「グローバルパートナー」は世界を危険な方向へと駆り立てる
日米同盟のさらなる拡大、初の日米比首脳会談の開催と海洋の安全保障協力強化での合意、人工知能(AI)、宇宙、脱炭素などの分野での提携の深化……米国を訪問中の日本の岸田文雄首相は既に多くの「成果」を手にしている。
ただ、中国からみれば看過できない事実がある。それは、両国首脳が会談の中で、頻繁に中国をやり玉に挙げており、ここでいう「成果」というのも、中国こそ「世界の平和と安定にとって、これまでにない最大の戦略的挑戦」である、という実態の伴わない仮説を出発点にしていることである。
岸田氏はそうした仮説に基づいて、日米が「グローバルパートナーシップ」を構築し、同士国、同盟国と共に、法に基づいた、自由で開かれた国際秩序と平和を守ることの重要性を訴え続けてきた。
「マッチポンプ」という日本語がある。自分の利益のために「意図的に問題を起こす」ことの例えという意味だそうだが、岸田氏の行動を見て、この表現を思い出した。
それはなぜか。
まず、岸田氏は今回の訪米で、その軍事的野心を改めて世界に示した。
多くの日本メディアも口をそろえて報じたように、岸田氏の今回の訪米の主な狙いは安全保障協力にある。岸田内閣はこれまでにも、2022年末に安保三文書を採択して「敵基地に対する反撃能力」の向上を図り、戦後日本が一貫して守ってきた「専守防衛」の原則に大きな風穴をあけた。防衛費のGDP比も2027年までに2%に引き上げることを決定している。その延長線上の動きとして、双方は今回の会談で日米両軍司令部の指揮・統制機能を見直すことで合意した。日本が陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させ、米側は東京・横田基地にある在日米軍司令部の機能を強化し、「作戦及び能力のシームレスな統合」を目指すという。
分析筋は、これにより、日米安保条約はこの60年間で最大の実質的な変容を遂げ、岸田氏は日本を一歩一歩「戦争ができる国」に引きずり込んでいるとして、自衛隊が対中国軍事戦略を推進する米軍の事実上の指揮下に組み込まれることになると指摘する。
双方はまた、新型兵器の共同研究、開発、生産、販売体制の強化で協力し、情報の収集、分析、偵察などの面でも協力を行う。これに先だって、岸田内閣はこの3月末、イギリス、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を解禁する方針を国会での議論を抜きに閣議決定し、国家安全保障会議(NSC)で武器輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定した。2023年末の弾薬や弾道ミサイルなどの輸出緩和に続く、高い殺傷能力を持つ戦闘機の解禁だ。これに対して、日本国内の有識者も、「武器輸出を抑制してきた日本の安全保障政策を大きく変質させることになる」と見ている。
次に、冷戦の産物であった日米同盟は、冷戦終結とともに寿命を全うするどころか、その対象範囲と協力分野は拡大する一方である。こうした変化はどのように生まれ、日本自身はその中でどのような役割を果たしてきたのか。踏み込んで分析する必要がある。
思い起こせば、安倍政権により打ち出された「自由で開かれたアジア太平洋」は、今や米国の国家戦略にまで格上げされている。日米同盟を土台に、日米韓、日米比、日米豪印(QUAD)など一連のミニラテラルの枠組みも次から次へと加わり、世界の分断をエスカレートさせている。