【観察眼】「村サッカー」と「村BA」が中国でバズった理由
中国全土を話題の渦に巻き込んだ「村サッカー」の決勝戦が終了した。
「村サッカー」とは、貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州榕江県で開催された「和美郷村サッカースーパーリーグ」を指す。5月13日から7月29日までの2カ月余りの間、地元住民からなる20チームが毎週末にトーナメント戦を行い、その数は98回にも上る。毎回5万人以上の観客を引き付け、関連コンテンツのウェブサイトでの再生回数は300 億回以上を数えるほどにバズった。
「村サッカー」に先んじて、バスケットボールの「村BA」が昨年から話題を呼んでいる。同じく黔東南ミャオ族トン族自治州にある台江県の村で行われたバスケットボールの試合は、1万人という観客規模と米プロリーグのNBAにも引けを取らない熱狂ぶりから、ネット民から「村BA」と呼ばれた。
この二つの草の根のリーグ戦が大バズリしたことで、日本のテレビ局を含む世界中のメディアが現地に取材に訪れた。さらに、NBAチーム「マイアミ・ヒート」のスター選手、ジミー・バトラーが台江県の会場を訪れ、 元イングランド代表のサッカー選手オーウェンが村サッカーにオンラインメッセージを寄せるなど、世界のトップ選手たちの目にも触れている。
同じ自治州内にある榕江県と台江県は200キロほど離れているが、どちらも2020年に貧困から脱却したばかりの県である。何故ここで開かれたスポーツ試合がかくもバズったのだろうか。
まず言えるのは、この二つの大会の成功が、地域の内生的な発展の現れであることだ。
榕江のサッカーと台江のバスケットボールは、どちらも80年余りの歴史があり、現地では人々に大変親しまれているスポーツの一つである。榕江県では、人口38万人のうち、サッカー人口が5万人に上ると言われている。また、標準的なサッカー場の数は14 もあり、登録チーム数は35で、選手の人数も数千人に上り、村同士の交流試合が日常的に行われている土地柄である。同じく、村BA開催地の台江県にも、同様のバスケットボールに慣れ親しんだ伝統がある。
次に、いずれの大会も地元の人々が自発的に企画・開催したものであり、人々の自主性が最大限に尊重されていることだ。入場は無料だし、商業的なスポンサーシップもつけない。開催費用は地元の人々の寄付金でまかない、賞品は豚足に牛、羊、豚など、現地の生活に密着したものである。こうした住民たちの意欲を尊重し、それをサポートするために、地方政府が交通整理、電力供給、警備などの面で最大限に支援してきた点も特徴的だ。
次に、この二つの大会はいずれも、中国が小康社会を全面的に実現した後、各地がさらなる地方創生の推進に向けて行った取り組みであることだ。
榕江県と台江県は貧困から脱却した後、さまざまな新しい試みを行ってきた。中には、回り道もあった。榕江県の場合、闘牛、バスケットボールの招待試合、マラソン大会、地元の少数民族の伝統的な祭りなどに特化することで地域振興に取り組んできたものの、いずれも期待した成果を上げることはできなかった。そうした一連の試行錯誤を経て確立されたのは、今回のようなスポーツに現地の歴史、文化及び少数民族の特色に富んだ地域色を融合するという路線である。