日本人スタッフのつぶやき330~第十三期五カ年計画へのまなざし①
向田和弘
はじめに
昨年九月末、中国共産党第18期五中全会が終了し、2016年からの五年間の中国を展望する「第十三期五カ年計画」の骨子が発表された。習近平総書記による三大方針①新境地②新理念③新経路のもと、これらの骨子を基に関係法規が整備され、来年の全人代までには枠組みが更に明確化、2016年からの中国を形作っていくことになる。
本稿では、現実の中国社会における市民の反応や、生活の現実から、この骨子に求められるものを考え、より良い社会実現のための提言を試みるものである。なお、あくまで生活者の角度から記したものであるから、経済学や社会学などの角度からの社会科学的批判は受け止めきれない。筆者としては、ただただ中国の政策環境と生活環境の向上を促す意味で書いているということを前提としてご理解いただければ幸いである。
習総書記の発表は、その全文が公開されているが、ここ数年の流行として、一部メディアがそのグラフ化をしてくれているので、本稿では中国経済網の発表した「何止"放开二孩"十三五还定了这些大事(以下「何止」)」1)を基礎に、その内容を確認して行きたい。また、この場で全ての検証は不可能であるから、本文はあくまでも上記特集で取り上げられた範囲での政策に関して、より良い効果を得るための意見として捉えていただければ幸いである。
各論
さて、「何止」では、今回の発表について、その提言内容を以下の項目をまとめている。
①二人っ子政策ーー一人っ子政策の廃止
②2020年のGDPを2010年の倍にする
③都市住民の重症疾患保険制度を完備する
④ビッグデータ戦略の実施
⑤史上最高レベルの環境保護制度の施行
⑥政府の価格決定への関与を減少する
⑦国有資産管理制度の完備と金融監督スキームの改革
⑧国有資本を取り崩し、社会保障基金を充実する
⑨ヘルスケア及び食品安全制度の向上
⑩エコ型社会の建設
⑪党幹部の党籍剥奪
⑫中央委員の繰上げ補選
以下、このまとめに従う形で、項目別に展望を考えてみたい。
二人っ子政策ーー一人っ子政策の廃止
今回発表された政策の中で、なによりの目玉は、事実上の一人っ子政策の廃止であり、これは発表と同時に国民が多く議論するところとなった。本政策は、現状の中国が社会の高齢化問題と生産人口減少問題の対策として取り組む施策のひとつであるが、日本で高齢化社会とそれによる保険負担増、社会構造の変化を目の当たりにしてきた立場からすれば、少々遅かったのではないかという感も強い。もちろん、日本の危機的状況と照らせば、今回切った舵の意味は大きいし、日本も出産奨励の方向性を考えてもいいのではないかと感じる。
中国では1972年天津でその第一声が発せられ、79年頃から一人っ子政策が全国に広められ、80年代後半生まれの若者からは、ほぼ一家には子供が一人しかいない状況が普遍化、この状況は40年間にわたり継続してきた。この減少は、人口ボーナスの時期を過ぎると人口オーナスへと転換し、現在では生産力の低下と将来の社会のゆがんだ負担として顕在化していることからも、現政府としてはこれまでの政策を転換せざるを得なかったのではないかと感じるし、2013年の3中全会から変わりだした政策からは、それに踏み切った現指導部の危機感も同時に感じることができるのだが、まだ2名に制限している点は国家イメージにマイナスに感じるし、問題の解決にはならない。そして、現実的には、実際の市民は物価や社会環境の変化から、生むのをためらうようになっている。実際に奏功するかは、どれだけ市民生活に豊かさが回復するかにもかかっているし、子沢山を幸せの象徴と考えない世代が出てきている今、計画出産政策を逆のベクトル、つまり増やすための計画へ向けなければならなくなるのではないかと感じるのは、私だけではあるまい(当然のことながら、農村部、2-3級都市と呼ばれる地方都市での「まず生んでしまえ」という層の存在も事実として認識している。中国の国家発展の大きな課題として、都市農村間の意識の不一致が挙げられると思うが、この「生育観」は非常に大きなものの一つであり、指導者層が危惧するのは理解している。ただ、この観念的な意識の差は、現実の経済状況や社会環境により変化していくものであるから、本文の提言はそれを全部含めた30年スパンのものであることをご理解願いたい)。