「松明祭り」から見るイ族文化―ス果覚村1
中国のカレンダーには毎年旧暦6月24日に「松明祭り」(中国語では火把節)と記されている。今年は8月2日に当たったが、日本人には耳慣れないし、中国の都市に長く暮らしていても接することが少ない。というのも、この松明祭りは中国の少数民族イ族の伝統祭祀行事だからだ。松明祭りは国家無形文化遺産に指定されていて、雲南、貴州、四川など、イ族が分布する地域で行われている。今回はその松明祭りを体験するため、四川省涼山イ族自治州喜徳県両河口鎮ス果覚村を訪れた。
松明祭り日程
一般的な松明祭りは三日三晩だが、ス果覚村は5日間にわたって行われる。この村の人々にとっては一年で最も重要な祭りだ。松明には火で虫を駆除し、作物の成長を保護してくれることから、五穀豊穣への希望と平安や吉祥の祈りが込められている。そのため、「取火」「頌火」「送火」という火にまつわる儀式が行われ、松明を作り火を迎える「取火」から祭りが始まる。その火も、石と鉄の片を擦り合わせる原始的な方法でおこされる。火をおこすことを体験してみたものの、火花が少し散るだけで非常に難しい。このことから火が人々にとって貴重で大切にされていた意味を改めて感じることができる。一日目は家族や親せきが集まって取火を行うほか、育てた羊や豚を殺める。これはもともと肉を食べられるのが一年でこの祭りの時だけだったことに由来する。
火起こしの様子
取火の様子
2日目から4日目の三日間は毎日松明を持って「蛾を燃やせ、害虫を燃やせ、豪雨を燃やせ、雹(ひょう)を燃やせ!」と叫びながら村を練り歩く。これは松明や火の神を称え、火を崇める「頌火」と呼ばれる。そのほか、中日には競走馬、闘牛、闘羊、レスリングなどが行われ、人々が集い大いに盛り上がりをみせる。しかし、今年は新型コロナウイルス感染防止のため、残念ながらこれらの催しはすべてキャンセルとなってしまった。
頌火の様子
そして最終日の5日目が「送火」。キャンプファイヤーのように、皆の松明を集めた火を囲み、村の人々が各々イ族の伝統衣装に身を纏い、集まって踊る。この集まりは若い男女の出会いの場となることもあるそうだ。ここでは大鍋で煮た豚料理トゥオトゥオ肉(トゥオは陀が土辺、かたまりの意味)や豚と大根のスープ、蕎麦粉を使って作った饅頭がふるまわれる。これもすべて山と村で採れる恵みからできたものだ。松明祭りの間は肉を食し、その恵みに感謝しながら火を崇拝し五穀豊穣を祈る時間となる。
送火の様子
トゥオトゥオ肉と蕎麦饅頭
日本の火祭りにも似ているところが多々あるが、中国の少数民族にも松明を持ち火を崇める行事が根付いている。人々の火に対する崇拝は時代や場所を超えて伝わっている。松明祭りは今では人々が集い楽しむ行事の1つとなっているが、この伝統が今後も末永く伝承され、自然の恵みと火の大切さを忘れ去られないようにしてほしい。