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【特別寄稿】清華大学劉暁峰教授:卯年のハナシ月にウサギがいる理由

CRIPublished: 2023-01-01 10:45:48
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2023年は卯年、十二支の4番目にあたります。中国には、「ウサギ」についての定番のイメージがあります。それは、月には白いウサギ(玉兎)がいて、杵と臼で薬草をついて、不老不死の薬をつくり続けているというものです。

なぜ古代中国人は月にウサギがいると考えたのか、なぜ白いウサギなのか、なぜ薬をつくっているのか──そして、これらの伝説には人々のどのような思いが込められているのか。清華大学歴史学部の劉暁峰教授に、中国のウサギにまつわる謎解きをお願いしました。

清華大学歴史学部・劉暁峰教授中国民俗学学会・元副会長京都大学博士

著書には『東アジアの時間』『《節日中国:端午》』など多数

■「兎子(ウサギ)」は「吐子(子を吐く)」、子孫繁栄の象徴だった

西晋(265-316)の志怪小説集『博物志』(張華著)には、「兔舐毫望月而孕,口中吐子」(兎、毫(け)を舐(な)めて月を望んで孕み、口中より子を吐く)という記述があります。

中国語では、「吐子(子を吐く)」も「兎子(ウサギ)」も同じく「トゥーズ」と発音します。「口から子を吐き出す」ことが何を指すのか定かではないですが、野ウサギが巣穴を引っ越す際に、親ウサギが子ウサギを口にくわえて走るという目撃情報があります。「子どもを口から吐き出すくらい子宝に恵まれた動物」、そんな子孫繁栄のイメージが「兎子」の命名に込められていると言えます。

「ウサギと宝珠」

■中国昔話のウサギたちはなぜ白い?

さて、中国の昔話に出てくるウサギは、「玉兎(白い兎)」がほとんどです。一方で、野ウサギの毛色は茶色や赤茶色、褐色などしかありません。白くて目が赤いウサギは、実は欧州で飼い馴らされたカイウサギです。

北京大学の陳連山教授によりますと、カイウサギの中国伝来は明末の崇禎年間(1628—1644)でした。なぜ、それよりはるか昔の中国の物語に、白いウサギが頻繁に登場するのでしょうか。

これを突き詰めると、古代中国人の長寿の願望にたどり着きます。東晋(317-420)の道教の教説書『抱朴子』には、ウサギは千年生きることができ、500年の修業を続けることでようやく毛色が白くなると記されています。そのため、白いウサギは縁起の良い、天下大安のシンボルとされたのです。

もっとも、現実世界のウサギの寿命は20年ほど。ですから、昔話に登場する白いウサギというのは、今私たちが目にするカイウサギとは異なる、古代人の想像上のウサギだったわけです。

薬草をついて不老不死の薬をつくる玉兎のイメージ

■「月とウサギ」の組み合わせは紀元前からあった

月とウサギを結び付けて記された最古の記録は『楚辞・天問』(完成は紀元前26年~前6年とされる)です。

「夜光何徳,死則又育。厥利維何,而顧菟在腹」という詩文に対し、後漢の王逸は「言月中有菟,何所貪利,居月之腹顧望乎。菟一作兔」と注釈をつけ、「月にはウサギがいる」と説明を加えました。以上の記述から、文豪・屈原(紀元前340-前278)が暮らしていた戦国時代(紀元前5世紀-前221年)にはすでに、月とウサギが結び付けて語られていたことが分かります。

では、なぜ両者は結び付けられたのでしょう。

現代人にとって、月の満ち欠けは天文現象の一つに過ぎませんが、古代人は「月は約30日周期で死んでは復活する」と見なしていました。そのため、月は神秘的な力を宿しており、永遠の命を持っていると信じられていたのです。一方、ウサギは繁殖力が旺盛で、1回の出産で4~8匹の子ウサギを産みます。妊娠期間は1カ月と短く、しかも月の満ち欠けの周期とほぼ同じです。さらに、昔の人々の目には「ウサギの口には障害がある」と見えていたらしく、そんなハンディキャップを乗り越えて子孫を増やし続けることができるウサギは、非常にたくましい動物だと認識されていたのです。

月とウサギの共通点は、絶えることのない生命力。それが、古代の中国人が両者を並べて語った理由だと推測できます。

■月世界に生きるウサギそのイメージはさらに発展していった

中国人のイメージする「月の世界」は、ウサギが住むだけにとどまらず、どんどん進化していきました。

出土した漢代の画像石(絵画が刻まれた石材)にはウサギや月の文様が多数見受けられます。「月に暮らすウサギ」の目線に立ってみると、漢代になって起こった大きな変化といえば、まず西王母の世界が生まれたこと、次に陰陽五行説が浸透したことと言えるでしょう。

『中国漢画像石全集第二巻山東漢画像石』(山東美術出版社)2000年版

右上が不老不死の薬をつくる玉兎で、その下に薬を運ぶ2匹のヒキガエルがいる

西王母はもともと西方の原住民部落の名前でしたが、後に月を司る不老不死の女王の名となりました。西王母が司る月世界のメンバーには、玉兎のほか、九尾の狐、青鳥、ヒキガエルなどがいます。玉兎には、薬草をついて不老不死の薬をつくる役目があり、出来上がった薬を運び出すのはヒキガエルの仕事です。

薬をつくる玉兎

実はこのヒキガエルも、月とウサギの関係を語る上で欠かせない存在です。生死と復活の象徴であった月の満ち欠けですが、ではなぜ月が欠けるのかというと、漢代では、ヒキガエルに食べられてしまうためだと想像されていたのです。

馬王堆の帛書に描かれた月・ヒキガエル・玉兎

湖南省長沙市で出土た漢代の古墳・馬王堆の帛書(シルクに描かれた絵)には、満月を食べているヒキガエルの絵が描かれています。この絵では、月はほぼ食べ尽くされ、わずかに縁だけが残っています。そのヒキガエルの向かい側に描かれているのが、ウサギの姿です。漢代の人は、たとえヒキガエルに食べ尽くされようとも、ウサギが立ち上がって助けに行くことで、月は復活するのだと信じていました。

北京土産の定番でもある「兎児爺(トゥルイエ)」の泥人形

中国の民間では、その後もウサギのイメージはさまざまに発展しました。一部の地方では、「玉兎」は神獣として切り絵の題材になり、新年や中秋節などに飾る縁起ものとされています。また、北京では中秋節に「兎児爺(トゥルイエ)」と呼ばれるウサギの人形が飾られます。

このように中国には、子だくさんのウサギ、不老不死の薬をつくるウサギ、正義の味方のウサギなどなど、ウサギに関する多様なイメージが定着しています。ウサギひとつとっても、伝統文化を読み解くたくさんのカギが秘められていることが分かります。

剪紙「天秤棒をかつぐウサギ」山東省高密

『中国吉祥剪紙図集』藩魯生・陳魯夏編著北京工藝美術出版社1999年

■癸卯年希望が芽吹く年になれ

陰陽五行説に基づけば、2023年は癸卯(みずのと・う)年です。

『説文解字』によれば、卯とは「冒也。二月,萬物冒地而出。象開門之形」──つまり、開かれた門の形をしており、大地が目覚めて草などが地面から出てくる2月を意味する言葉です。

また、干支における「卯」は東の方角で、四季では春にあたり、一日で言えば朝の5時~7時で、一日が動き出す時間です。このような生命力と将来性に満ちた「卯」の年の動物であるウサギは、繁殖力が強く、傷を癒やす、無尽蔵の生気を持つ生き物とされています。

世界は3年も続いたパンデミックにより停滞に陥っています。ですが2023年は癸卯年が意味するとおり、希望の芽吹く春が訪れるはずです。世界中の人々にとって、素敵な年になることを願ってやみません。

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