中国最年少の冬季五輪金メダリスト、蘇翊鳴が中国スノーボード界にもたらすもの~李為・元コーチに聞く
――李為さんは蘇選手とも佐藤コーチとも縁が深いとか
蘇翊鳴選手と佐藤コーチとは、それぞれ別の時期に知り合いました。佐藤コーチのことを知ったのは、ぼくが中国代表のコーチをしていた時です。彼の指導を受けて猛烈なスピードで進歩するスノーボード少年の映像を目にしたのです。それで、ぜひこの佐藤コーチを中国代表に招くようにと、国家体育総局に推薦しました。
蘇翊鳴選手については、彼の少年時代から知っています。当時の彼は体が小さく、トリックのベースとして360(スリー・シックスティー)かける2の720(セブン・ツー)しか回れませんでした。それが今では1980度回転のギネス記録の保持者ですからね。
――蘇選手の成長に、佐藤コーチはどう影響したのでしょう
もともと、蘇選手は一人で練習していましたが、佐藤コーチの評判を聞いて、自分から指導を仰いだのです。佐藤コーチに出会うことがなければ、今の蘇翊鳴はなかったでしょう。彼がいたからこその五輪メダルだと思います。
佐藤コーチの指導はとても細かく、厳しいです。褒めるところは褒めますが、うまくできない時に笑顔は見せません。怖いくらいの雰囲気です。練習以外ではとても優しく、よく冗談を言う、フランクな方です。
左から佐藤コーチ、蘇選手、李さん
■スノーボードならではのカルチャー、勝ち負けにこだわりすぎない思考が広がってほしい
――中国と日本のスノーボード界はどう違うのでしょうか
私がスノーボードと出会ったきっかけは日本への留学でしたが、その頃から今に至るまで、スノーボードのレベルは日本のほうが上です。たとえばコロナ禍でも、日本の選手はアメリカやヨーロッパで行われる大会に出場しましたが、中国の選手は海外には行けず、ポイントを得る機会がありませんでした。そんな中で、蘇選手は個人として海外遠征に出かけ、出場資格を手にしました。
――李為さんにとって、スノーボードの魅力とは?
そもそもスノーボードは遊びから生まれたスポーツで、ぼくにとっては競い合うだけじゃない、それ以上のものがあります。相手が高得点をたたき出せば、自分の順位は下がります。それでも、滑り終えれば皆でハグして称えます。そういうカルチャーなのです。スノーボーダーはみな仲間で、まずは仲良くなって、一緒に楽しもうよという連帯感がありますね。
だからこそ、採点の仕方について問題になることもありますが、ジャッジのことはジャッジたちで解決してほしいと考える——それがライダーの基本的なスタンスです。その結果を自分たちは気にしないというか、同じ人間なのだからジャッジもミスすることもあると考えている。それも、この競技の特徴だとわきまえています。そういう雰囲気も魅力の一つです。
――蘇選手が銀メダルを獲得した7日の男子スロープスタイルの決勝でも、採点ミスがあったことを審判が後から認めるというできごとがありました。ですが、蘇選手と佐藤コーチは「審判をこれ以上非難しないでください。この話題はここまでにしましょう」と公開メッセージを出しましたね。
15日のビッグエアに専念したいというのもあるでしょうが、スノーボード界ならではのカルチャーの表れとも言えるでしょうね。こうした(勝ち負けにこだわりすぎない)考え方が、スノーボードの普及に伴って中国でもどんどん広がっていくことを期待しています。