『論語』成立過程にフォーカス 渡邉義浩氏の著書が北京で中国語版出版記念
日本の中国古代史研究者である渡邉義浩氏(62歳)の著作『「論語」 孔子の言葉はいかにつくられたか」の中国語版出版を記念するイベントが20日、北京で開催されました。
会場の様子
渡邉氏は、早稲田大学理事・文学学術院教授、早稲田大学文化推進担当理事を務めており、日本では『三国志』研究の第一人者として知られています。同書は渡邉氏がコロナ期間中、早稲田大学のオンライン授業用に作成した講義ノートをまとめたもので、『論語』の成立過程と南宋・朱熹の『論語集注』が成立するまでの歴史をひもとき、『論語』テキストの系譜を思想史として描き出そうとしたものです。同氏はまた、『論語』は孔子の「ありがたい」言葉が収められているものではなく、長い歴史の中で、思想家たちの意図のもとに孔子の言動は作られてきた、という説を唱えています。
同書の翻訳・出版は教育、研修サービスを手掛ける中国の民間企業からの申し出を受け、学術界や出版界がその意義を肯定し、実現したものです。
出版元の世界知識出版社の汪琴編集長は、作者の深い学術的造詣と表現力をたたえ、同書は中国の古典が世界に広まっていくプロセスを明らかにし、中日間の人的・文化的交流と友好往来の証だとその意義を高く評価しました。
北京大学哲学系教授で中華孔子学会副会長の張学智氏はイベントの席上、「『論語』の多くは孔子やその弟子たちではない思想家らにより作られたもの」という渡邉氏の説に対し、「完全には同意しかねる」と慎重さを崩しませんでした。しかし、同書は「中日の多くの学術成果を取り入れており、厳格な学術的規範を順守しながらも、一般読者にも分かりやすく書かれている」とし、渡邉氏が研究において、「孔子を取り巻く光背を取り除き、斬新な視点に立って、ありのままで等身大を心がけている」と高く評価しました。
出版記念イベントに出席した関係者
翻訳を手掛けた上海第二工業大学講師の葉晶晶氏は、同書は『論語』の古注、すなわち南宋・朱熹の『論語集注』よりも以前の注釈書に着眼して、『論語』の形成過程にある複雑な歴史と思想的背景を突き止めようとする点が最も印象に残ったと振り返りました。
監訳を務めた北京外国語大学日本研究センター教授の郭連友氏は、「『論語』は中国の古典だが、日本でも独自の伝承と注釈が行われてきた。出版をきっかけに、文化を跨いだ交流と対話が推し進められ、異文化間の相互理解と尊重が増し、文明の共同発展を促していくことを願う」と期待を寄せました。
早稲田大学文化推進担当理事・渡邉義浩教授
執筆者の渡邉氏は中央広播電視総台(チャイナ・メディア・グループ/CMG)に対し、「『論語』の故郷である中国で、自分の本が翻訳され出版できたことがうれしい」と語り、「『論語』などの古典は時代や個人に応じて受け取り方が異なるからこそ、時代を超えた普遍性を持って読み継がれてきた」とその今日的な意義を話しました。
『論語』は2500年余りの間、歴代の学者により約3000種類の注釈書が書き残されています。海外において『論語』は30余りの外国語に翻訳され、幅広く読まれています。