【観察眼】貧困も“有罪”になる人権保障“完璧”国家 米国
米国のロサンゼルスやニューヨーク、サンフランシスコなどの大都市では、公園や駅、歩道に多くのテントが張られているのがよく見られる。テントの中にいるのは、悠々自適にキャンプを楽しんでいる人々ではなく、仕事や住宅を失ったホームレスだ。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルがこのほど全米各地のホームレス支援組織の統計データをまとめたところ、ホームレス人口は前年同期比で約10%増加しており、今年は昨年推定された65万3000人を上回り、2007年の統計開始以来、最高を記録する可能性があることがわかった。
実際に、ここ数年で米政府や主要メディア、調査機関が発表したデータは、いずれも全米のホームレス人口が増加を続けていることを示している。その背景には米国の根強い社会問題がある。
米国は西側諸国の中でも格差問題が最も深刻で、そのジニ係数(所得の不平等さを計る指標)は上昇し続けている。世界銀行の統計によると、1974年に0.353だった米国のジニ係数は、2019年には0.415に上昇し、今年初めには0.485と、「貧富の差が大きすぎる」という警戒レベルの0.4をはるかに上回り、過去50年の最高数値に達した。
また、米国勢調査局の統計によると、米国の貧困率は10年以上連続して高水準で推移しており、2021年には11.6%に上った。現在、約3700万人もの人が貧困ライン以下で生活している。新型コロナウイルスの流行が米国に大きなダメージを与え、企業の倒産や店舗の閉鎖、サービス業に従事する低所得者の大量失業につながった。その後の景気回復に伴って、住宅価格や家賃が急上昇し、昨年の上昇幅は20%を超えているが、一方で、所得の伸びはそれに追いついていない状況だ。同時に、低所得者向けの公共住宅は、現在、不足が700万軒に達しているほど慢性的に不足していることや、全米では約3000万人が医療保険に未加入であるなど医療保険のカバーが不十分であることといった問題も、ホームレスの増加に拍車をかけているとみられる。就職難と生活コストの上昇という二重の重圧を背負う低所得者は、ひとたび病気や失業、事故などに見舞われれば、すぐに生活苦に陥り、家賃が払えず住む場所を失い、路上生活を余儀なくされる恐れがある。
米国のホームレスは常に飢え、凍え、病気に苦しむだけでなく、薬物問題や犯罪の被害者になることも多い。そればかりか、政府の無関心、さらには追放が、彼らの苦しみをさらに深刻化させている。今年6月、米最高裁は、ホームレスが公共の場で寝泊まりすることを禁じるオレゴン州グランツパス市が制定した条例を支持する判断を下した。これは、米国では、ホームレスが処罰の対象となり、貧しいことは「有罪」になるということを意味している。
ホームレス問題の解決は、政府や政党が積極的に役割を果たす必要がある制度上の問題である。しかし、連邦政府と地方政府の責任のなすりつけ合い、民主・共和両党間の争いが、問題解決の見通しを不透明なものにしている。米国で最も人口の多いカリフォルニア州を例にとると、州の当局者は、ホームレス問題の解決のために連邦政府からの資金援助を求める書簡を連名で米大統領や住宅都市開発長官に送った。しかし、連邦政府は返信でそれを拒否したうえ、カリフォルニア州の政策を失敗だと非難した。また、民主・共和両党は、ホームレス問題をしばしば相手のガバナンス能力の不足を批判する道具として使い、それぞれが対策を提示しても、政治的立場から意図的に反対意見を主張し、その結果、意味のない論議に帰することが多い。
極度の貧困と人権に関する国連特別報告者だったフィリップ・アルストン氏は、2017年に2週間にわたる米国訪問を終えて発表した声明の中で、このような調査結果を示した。「先進国の中では、米国が唯一、“飢餓で死ぬことを免れる権利、貧困で医療を受けられないことを免れる権利、極度の貧困状態で育つことを免れる権利は、人権に含まれない”と主張する国だ」。
こうしてみると、米国社会の最下層にいるホームレスでさえ、その人権が“十分に”保障されている。米国はさすが、世界で“最も素晴らしい国”“最も人権が確保されている国”だ。