【観察眼】比に忠告「目を開いて広い心で世界の情勢を見極めるべき」
ここ最近、フィリピンの巡視船が幾度にもわたって中国南沙諸島の黄岩島、仁愛礁と仙賓礁付近の海域に不法に侵入した。これは両国間の関係に暗い影を落とすとともに、南海地域の関係国の神経をとがらせている。
2016年6月30日から2022年6月30日にかけて、中国とフィリピンは南海問題においてそれまでの摩擦、衝突から平和的協力にシフトした。フィリピンのマルコス氏は2022年6月の大統領就任後、前任のドゥテルテ氏の対中友好政策をある程度継続する一方で米国との同盟を強化し、その「政治的風見鶏」の特徴を絶えず現わしている。マルコス氏は2023年に、フィリピンにおける米軍の軍事基地を実質上5カ所から9カ所に増やすことを許可すると発表し、フィリピンと米国の合同軍事演習を行い、今年は比日、そして比米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)がそれぞれ開催された。
マルコス氏はなぜ米国寄りになったのか。実はマルコス氏は大統領になってからずっと、中国と協力するか、米国に追随するかの選択で躊躇し、その両方からメリットを得たいと考えていた。だが、マルコス氏は国内で山積みの問題に直面しており、深刻なインフレ問題がある上、貧困率は絶えず高まり続けている。フィリピンの世論調査機関「アジア脈拍(Pulse Asia)」が6月17日から24日にかけて行ったアンケート調査によると、「最も緊迫した17の国家問題」のうち、直面している最も緊迫した問題はインフレであると回答した人が調査を受けた人の72%に達し、次が賃金引き上げの44%で、「国土防衛」(5%)などの選択肢はるかに上回った。ほかにも、国民が解決して欲しい問題として、経済の改善(36%)、雇用の創出(35%)も挙げられている。フィリピンのインフレの半分以上は食品価格の上昇に起因しているが、マルコス氏の在任中、フィリピンは初めて世界最大のコメ輸入国となった。フィリピンの政治問題アナリストであるロナルド・ラーマス(Ronald Llamas)氏は、マルコス氏の弱みは経済問題であり、それが支持率を下げているとみている。二つ目の理由は、マルコス氏が米日などとの協力でより大きな経済的利益を手に入れることができると計算し、さらには南海の石油・ガス資源を狙っていることだ。
そのため、マルコス氏は海上紛争を激化させることで国民の注意力を分散させ、国内問題からの圧力を緩和させる方法に踏み切った。中国との対立を選んだ後、同氏は徹底的に米国に追随することになった。現地時間の2024年4月11日、初の米日比3国間サミットがワシントンで開催された。米日比3国間メカニズムの目的は、台湾海峡と南海の連動による中国への包囲網強化だ。米国とその同盟国は、南海における中国の正当な権利と利益を中傷することも含めて、フィリピンを支持すると主張している。こうした支持がフィリピンに「火遊び」するやる気を与え、南海問題でより過激な立場を取る勇気を与えた。
マルコス氏は、米国を頼る見返りとして、すぐさま日米にフィリピンへの投資を要請した。今年5月、米日比は「ルソン経済回廊問題」について初の公式会合を開いたが、フィリピン側は今後5~10年以内に約1000億ドルの投資を得ることを望んでいる。仮に日米が膨大な投資額を飲んでも、それがいつ実施されるのかは大きな疑問だ。
一方で、ドゥテルテ政権に対する中国の支持を見てみると、両国は2016年に150億ドルの投資と90億ドルの融資を含む240億ドルに及ぶ協議に署名したが、これは双方の経済貿易協力が大きな成果を収めるのを促進してきた。中国は6年連続でフィリピンの最大の貿易パートナーとなり、フィリピンにとって第2位の輸出国に躍り出た。中比の2022年の貿易額は前年同期比7.1%増の877億3000万ドルに達した。このうち、中国からフィリピンへの輸出額は前年同期比13.2%増の646億8000万ドルで、フィリピンからの輸入は230億5000万ドルだった。ドゥテルテ元大統領の報道官を務めたハリー・ロク(Harry Roque)氏は、メディアのアルジャジーラに対して、マルコス政府が米国を頼ったことは「重大な誤り」であり、外交政策の転換はフィリピンと中国の関係にマイナスの影響を与え、中国のフィリピンへの投資が減少したと語った。
フィリピンのアジア世紀戦略研究所のアンナ・マリンダ・ウイ副所長は2024年6月インタビューに応じ、「台湾海峡の衝突に巻き込まれないためには、マルコス政府はその外交政策を再調整し、真の中立と独立に向かわなければならない。フィリピンはいかなる外国の影響も、特に元植民地支配者である米国の影響を受けてはならない」と強調した。
1974年、当時16歳のマルコス氏は母親と共に中国を訪れ、中国の指導者・毛沢東主席に会ったと言われており、同氏はその後、政治的な資本としてよくこの話を回りの人に話していたという。だが、マルコス氏は毛沢東主席が詠んだ詩の中の一句を真剣に読んだことはないはずだ。それは「風物長宜放眼量