【観察眼】在中国日本企業の投資意欲改善は「景況の悪化」が原因?
8000社以上の会員企業を抱える中国日本商会は14日、北京で発表会を開き、会員企業を対象に四半期ごとに行っているアンケート調査の最新結果を発表した。同商会の本間哲朗会長は、今年の第1四半期、会員企業の業況や景況認識は、春節などの季節的要因の影響も受けて「小幅な悪化」となったが、今回の調査結果では、投資意欲が改善していることが重要なポイントだと示した。具体的には、2024年については投資を「増やす」または「維持する」と回答した企業数が前回よりさらに増えて、56%となっている。
こうした動きについて、本間会長は「在中国の多くの日本企業は中国進出後20~30年を経て、引き続き、中国を重要な市場と認識しており、それぞれの持ち場、稼げる領域を確保して、将来に向けた新たな取り組みに臨もうとしている、その姿勢に注目してほしい」との見方を示した。本間氏は会見で、業況や景況認識に「小幅な悪化」が見られたことについて、「今回の調査には、調査期間中に春節などの季節的要因が含まれているため、今後の調査と合わせて客観的かつ総合的に評価する必要がある」と述べた。
一方、日本企業の投資意欲改善に関する発表は、日本メディアの注目を集めた。「基調が前年同期比で小幅に悪化しているのに、投資意欲に改善が見られたのはなぜか」という質問が数多く出された。中には、「日本企業の対中投資意欲は改善したように見えるが、実際は中国経済が悪化し続けているため、中国で生き残るためのやむを得ない決断なのではないか」とまで問い詰めた記者もいた。
少し前まで、日本メディアの関心は「中国経済が悪化し、外資が中国から大量に撤退した」ことだったと記憶している。しかし、そうした論調を唱えた人たちは、結局は失望する結果になっている。おそらく投資の拡大と「景気の悪化」を結びつけて質問した記者にとって、ロジックよりも重要なのは、「中国経済はいずれ崩壊する」という推論とどうしても紐づけたかったからということではなかろうか。
本間会長はその質問に対し、「中国市場での競争は確かに熾烈になりつつある。じっとしていては、生き残るのは厳しい。市場の変化する方向に向けて先手を打ち、自分自身を変えていくことに資金を投入する会員企業が多い」と説明するとともに、昨年9月以来、これまでに行った3回の調査ではいずれも、日本企業の中国からの大規模な事業撤退の意欲は見られなかったと述べた。また、「経済や社会の発展に伴って、廉価な人件費はもはや中国でのもの作りの強みではない。だが、その代わりに、高等教育を受けた専門的な人材が大量にいることや、フルセット型の産業チェーンが備わっていることは、他の国に置き換えることが出来ない強みなのだ」と指摘している。
もっとも、今回のアンケート調査にはいろいろと問題があることも指摘している。会員企業の業況や景況認識は引き続き厳しい。その上で、中国に渡航する際のビザ手続きの簡素化、中央が発表した外資安定化措置の一刻も早い具体化など、ビジネス環境改善のための具体的な要望も多く挙げている。本間会長は、企業所在地の行政に対し「そういった声に耳を傾けていただき、一つでも問題の解決を図ってほしい」と声を上げた。
本間会長は会見で、次の事実も明らかにした。それは、日本企業が海外に設けている現地法人の数では、在中国の日本企業が3万1300社と突出して1位で、2位のタイ(5800社)を大きく上回るだけでなく、2位から10位までの合計をも上回っているという点だ。日本企業は長年にわたって中国に根を下ろし、中国経済の発展と共に歩み、事業を拡大してきたと同時に、中国の経済社会の発展にも貢献してきた。双方は早くから互恵ウィンウィンの関係を築いてきた。これは紛れもない事実と言える。
今回の調査では、一部の日本企業からは、事業構造の調整などで「投資額を減らしても、研究開発や人材育成のための投資を行う」というコメントが示され、中国事業を長期的かつ前向きな姿勢で捉えている姿を垣間見ることができる。
何かにつけて中国経済崩壊論をあおる報道の論調は、そろそろ一段落しても良いのではなかろうか。