【観察眼】作家・伊藤比呂美さんが実感した中国のリアルに思う
中国の歴史・伝統文化と現在を切り離して捉えるという見方が生じたのはなぜだろうか。伊藤さん個人の好みや性格もあろう。しかし、ややもすれば、色眼鏡をかけた、ネガティブな報道がされがちな環境で暮らしていれば、人は自ずと中国と距離を保ちたくなるようなことがあるのではなかろうか、そう深読みしたくなる。
伊藤さんの北京滞在中、中国の出版社は彼女が10年以上続けているという「ズンバ」のイベントを開催した。68歳になる伊藤さんは1時間にわたり、中国の約100人の読者とともに、ノリノリの音楽に合わせて汗を流した。「日本の作家はたくさんいるが、中国で読者のみなさんと一緒にズンバを1時間も踊った人は私だけだ」、と伊藤さんは誇らしそうに語った。
「10年早く来たかった。そしたら、もっと関われて、何度も来ることができたなと思っています」
中国との別れを惜しむ言葉のようにも聞こえた。
伊藤比呂美さんが実感した中国のリアルとは何だろうか。複雑なものは何もなかった。ズンバでともに流した汗、熱気、笑い、拍手が裏付ける人々のピュアな思い、フレンドリーさ、元気さ。日本人と変わらぬ喜怒哀楽があり、その感情をともに分かち合うことができる。伊藤さんはそう確信した。
中日は永遠の隣人であり、同じ漢字文化圏にある。色眼鏡を捨て去り、相手に近づき、リアルに迫ってこそ見えてくるものがある。これこそ、伊藤比呂美さんの中国紀行がもたらしてくれた気づきではなかろうか。