【観察眼】中国の美しい村 新たな希望を育む村おこし

私は都会生まれの都会育ちで、かつては農村についての知識も興味も乏しかった。しかしここ数年で、中国で進められている村おこしや美しい農村づくりの影響で、素朴で優美な村落に憧れるようになった。私のふるさとの雲南省ならば、秘境シーサンパンナの曼遠村、カルスト地形が広がる水上田園の普者黒仙人洞村、古都大理の諾鄧村、古い文化が残る建水県の団山村、高原の湖の撫仙湖畔にある海鏡村……雲南に帰省した際には、必ず時間を作ってどこかの村を訪れる。田舎の春夏秋冬の風情、人と自然の共生、その土地ならではの特産品など、素敵な思い出がいっぱい残った。

各地の土地柄にはそれぞれの「性格」がある。新時代の中国の農村は、その風土に根差すそれぞれの「個性」を生かして独自の農産物や農業を育んできた。例えば雲南省の省都の昆明市近郊の斗南村だ。1980年代初期には改革開放により農家生産請負制が全国に普及した。斗南村のある農家は請け負った農地でグラジオラスの栽培に挑戦して成功した。斗南村はその後、カーネーションやバラ、カスミソウ、チューリップなど花畑に覆われて、アジア一の「花の都」に生まれ変わった。現在は斗南村で生産された花は中国全国の7割以上のシェアを占める。毎日1600種類以上の切り花がここで取り引きされて、日本やタイ、シンガポール、ロシア、サウジアラビアなど50の国と地域に輸出される。1本のグラジオラスからアジア最大の花市場に進化した、まさに中国式村おこしの美談だ。

斗南村だけでなく、中国全土の農村が大いに変わった。デジタル化・情報化・インテリジェント化などの科学技術の発展に伴い、従来型の小規模農業は、中国の特色ある現代化スマート農業に向けて進化している。各地の農村部で様々な農業合作社（農業組合）が発足し、数え切れないほどのネットプラットフォームやモデルを通じて、農民と農業の生産要素が統括され、新たな農業関連産業が多く育まれた。農産物のライブコマースはその一例だ。

昔は想像も困難だった光景が現実になった。自宅で腰を下ろしたままで気楽に指1本を動かせば、「千里の彼方」の切り花や果物、生鮮食品などの農産物を入手できる。四川省のミカン、安徽省の梨、福建省の地鶏、東北地方のハチミツなど、ECプラットフォームやライブコマースで販売されている農産物は実に多種多様だ。しかもお値打ちで物流配送も便利で迅速だ。消費者も農家と農民も現実の恩恵を受けている。中国版ティックトックの「抖音 (ドウイン/Douyin)」のEC部門が発表した「2023年豊作祭りドウインEC農業支援ビッグデータ報告」によると、2022年9月から2023年9月まで、ドウイン傘下のECプラットフォームで実現した農産物関連の取引が47億3000万件に達した。すなわち1日当たりに1300万件以上の農産物は宅配便を通じて全国各地に販売されたという。

農村の基本色はグリーンで、農業の基本は生態系にある。現代化が進展するほど物質面の生活は豊富になり、その結果、人々は風光明媚な自然風景や田園生活への憧れが強くなる。近年の農村観光は多元化した消費ニーズに応えながら急速に成長している。従来型の農家民泊からグリーンツーリズム、農事体験などの複合型旅行に移行し、「景勝地＋農家」「民俗＋文化」「農場＋観光・ショッピング」「企業＋貧困扶助」など、複数の発展モデルが生まれた。特色ある民泊、農村修学旅行、養魚池レジャー、シェアリング菜園、「村超」や「村BA」など農村部でのサッカーやバスケットボールのリーグ戦など、一連の新業態が育まれた。エコ農業と低炭素の村おこしは現実なり、澄んだ水と青い山が農村部住民の幸せを支えている。

農業こそが国の基本であり、農村が安泰ならば国も安泰だ。今日の中国では2億人近くが農業に携わり、5億人近くが農村部に常住している。農業と農村の現代化には無限の可能性が潜んでいる。また、農村における新時代の中国式現代化に「人の現代化」は欠かせない。農村を愛し、農業に携わる技能を持つ「新農人」の養成は急務だ。ここ数年は中央政府も地方政府も、従来型農業でもデジタル農業でも、全産業チェーンにわたって「新農人」の養成扶助策が相次いで打ち出されている。政府と企業の連動、学校と企業の協働による新農人のイノベーションと起業、成長と成功が大いに見守られ支えられている。数億人以上の中国の農民が真の新農人に成長し、それぞれの美しい農村で農業という広い舞台で活躍する時、必ずや無限の創造力と消費力が生まれ、グローバルな持続可能な開発と貧困撲滅に、中国の知恵と力をより多くの注ぎ込むはずだ。