【観察眼】人民元建てLNG取引決済が世界にもたらすものとは?
中国とフランスのエネルギー大手、中国海洋石油とトタルエナジーズはこのほど、初めてとなる人民元建ての液化天然ガス(LNG)取引の決済を完了した。中国が人民元建てでLNGの輸入決済をするのはこれが初めてとなる。今回取引されたLNGはアラブ首長国連邦産の約6万5000トン。取引量はさほど多くないが、大きな意味を持つとみられている。
まず、中国がLNGの輸入を人民元建てで決済することにより、両替の手間がなくなり、取引が効率的かつ便利になるとともに、ドルなどの外貨を使うことで生じる為替リスクや決済コストの上昇を回避でき、各国と中国との二国間貿易の促進にもつながる。
また、ドルの為替相場の変動による不確実性を回避することができる。ドル相場の変動は各国、さらにはグローバルな経済活動に不確実性をもたらしており、米国がドルを「武器化」することで、その不確実性は無限に拡大されている。米国は頻繁に金融手段を通じて他国に制裁を科し、その国のドル建て取引のルートを遮断することで、国際貿易を停止させ、その国の経済発展に深刻な影響を与えている。また、米国はしばしば利上げと大量の紙幣放出を通じて自国の金融リスクを他国に転嫁しており、これが多くの国で連鎖反応を引き起こし、国際金融市場にゆさぶりをかけ続けている。これらの行為は、ドルを基準とした原油の価格設定と決済システムが極めてリスクが高いこと、自国通貨による決済がこうしたリスクを回避するのに有効であることを各国に気づかせつつある。
さらに、世界の通貨決済の多元化を推し進めることもできる。近年、より多元化した、公平かつ互恵的な国際通貨システムの構築を求める声が各国で高まっており、ますます多くの国が自国通貨を用いた貿易活動の試行を始めている。現在、中国、ロシア、インド、トルコ、サウジアラビア、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチン、アラブ首長国連邦、カタールなど多くの新興国が、自国通貨を使った二国間貿易の仕組みづくりを強化している。今回、人民元建てでエネルギー貿易の決済を行った中国に倣い、ますます多くの国や企業が人民元を含む多国の通貨を国際取引に用いることになるだろう。
資源が少なく、化石燃料を輸入に大きく依存している日本は、「オイルマネー」「ペトルダラー」に代表される国際原油取引におけるドルの絶対的な地位と、それによる弊害を実感しているだろう。『日本経済新聞』傘下の英文メディア「Nikkei Asian Review」が以前の記事で指摘したように、「アジアは石油・天然ガス貿易を人民元・日本円建て決済の方向へ移行すべきである。人民元は産油国に新たな選択肢を提供できる」。より多元化した通貨決済システムが世界経済を一層安定させ、中日両国を含む各国がその恩恵を受けることが予想される。